医療法人においては、理事長・理事が出資持分をめぐって経営権を争う事例が近年増加しています。経営権の対立は、経営の継続や従業員の雇用にも影響し、ひとたび紛争が顕在化すると、法人の存続に深刻なダメージを与えることがあります。
1 経営権争いの主なタイプ
経営権争いには、いくつかの典型的なパターンがあります。
まず多いのが、理事長の解任や選任をめぐる対立です。理事会構成員の一部が現理事長の経営方針に反発し、解任を強行しようとすることなどが考えられます。
次に、出資持分(持分あり医療法人の場合)の承継や譲渡をめぐる紛争があります。相続や離婚などを契機に、出資者間で法人支配の割合をめぐる対立が生じることが考えられます。
また、美容医療分野は比較的若い医師が経営をしていることが多いとはいえ、いずれ親族間での後継者争いが発生する可能性も念頭におくべきです。後継予定者の選定をめぐって親族や幹部スタッフの間で意見が割れ、組織の経営が混乱するのは、医療法人にかかわらず生じうるトラブルです。
2 経営権争いを防止するための方策
経営権をめぐる紛争を未然に防ぐには、定款の明確化と整備が重要です。理事の選任・解任手続、理事会の開催要件、議決方法などを具体的に定めておくことで、恣意的な運営を防止できます。
また、後継者計画(事業承継計画)を早期に策定し、関係者の間で共有することも有効です。法人の理念や経営方針を文書化しておくことで、世代交代時の混乱を最小限に抑えることができます。
さらに、理事会や社員総会の議事録を適正に作成・保存し、定期的に第三者によるリーガルチェックを受けることも、透明性の高い経営体制を維持するうえで欠かせません。
3 離婚にともなうトラブル
医師が離婚する際には、財産分与をめぐるトラブルが、個人間の問題にとどまらず、医療法人やクリニック経営そのものに影響を及ぼすケースがあります。特に開業医や法人経営者の場合、一般的な給与所得者とは異なる注意点があります。
(1)医療法人・クリニックに関する財産評価をめぐるトラブル
離婚時の財産分与では、婚姻期間中に形成された財産が分与対象となりますが、医師の場合、医療法人の出資持分、個人事業主の場合には医療機器・内装等の事業用資産、法人からの役員報酬・内部留保との関係などが問題となることがあります。
(2)多額の財産分与請求が経営に与える影響
財産分与として多額の金銭支払いを求められた場合、法人の場合でも法人資金の流用を余儀なくされたり、設備投資や人件費に影響が出る、などクリニック経営の安定性が損なわれるおそれがあります。
特に、短期間での一括支払いを求められると、法人経営と個人資産の線引きが曖昧になり、結果として法人に深刻なダメージを与えかねません。
このようなトラブルを防止するためには、離婚が現実化する前の段階からの備えが重要です。
① 法人資産と個人資産を明確にわける
② 出資持分・役員報酬・内部留保の整理
③ 配偶者の関与についてのルール化
等を予め準備しておくと良いでしょう。
また、離婚が視野に入った段階で、家事事件と医療法人法務の双方に精通した弁護士に相談することが極めて重要です。財産分与の整理と法人経営の維持を同時に見据えた対応が求められます。
4 弁護士ができるサポート
弁護士は、経営権争いの「予防」「早期解決」「再発防止」の各段階で、次のような支援を行うことができます。
– 定款・理事会規程などのリーガルチェックと改訂
– 理事会・社員総会の適法な開催手続の指導・立会い
– 理事長交代や出資持分などに関する契約書や議事録案の作成
– 紛争発生時の交渉・調停・訴訟対応
– 医療法人内部でのコンプライアンス体制構築支援
– 離婚協議・調停・訴訟への対応
経営権争いは、感情的な対立に発展しやすく、専門的な法的判断と冷静な対応が不可欠です。経験豊富な弁護士の関与により、法的リスクを最小限に抑え、安定した経営体制を維持することが可能になります。
5 まとめ
医療法人の経営権を守ることは、単に理事長の地位を守るという意味にとどまりません。安定した経営体制を維持することが、結果として職員や患者、地域社会の安心につながります。
当事務所では、医療法人の運営・承継・紛争対応に豊富な実績を有し、法人の実情に合わせた最適な法的サポートを提供しています。経営に関して少しでも不安を感じられた段階で、早めにご相談ください。
また美容医療クリニックは、医療法人社団ではなく、一般社団法人として経営されている場合も多いので、一般社団法人の維持に関するご相談も同様にご相談下さい。
顧問弁護士の場合、当該医療法人の実情、理事・スタッフの能力や経験、法人内部の人間関係にまで深く知ることになるのが通常ですので、最も合理的な経験権の維持や承継を提案することが可能となります。

